バングラデシュの水田土壌における 砒素汚染とその動態

Mohammad Shafiul Azam

砒素は環境中において、低濃度でも潜在的に毒性が懸念される汚染物質である。ガンジスデルタ地帯(バングラデシュおよびインド西ベンガル地方)における飲用地下水中の高い砒素濃度は、公衆衛生上の重大な危険性を示している。さらに、砒素を含有する地下水は、これらの地域で水田灌漑に広く使われており、そのため高濃度の砒素が水田土壌に蓄積されている。土壌中の砒素が食物に取り込まれることによって、人々への砒素曝露の危険性が増加することが懸念されており、水田土壌中の砒素の挙動について関心が高まっている。
水田土壌中の砒素挙動を明らかにするために、異なるpHや酸化還元電位条件でのバッチ溶出試験を行った。強い還元状態、高pHおよび低pHにおいて、土壌中砒素の溶解性が高いことが観察された。この結果から、土壌中の移動しやすい砒素分画を測定するために、酸−アルカリ連続抽出法の適用を提案し、本測定法を用いてバングラデシュ水田土壌中の砒素の移動可能性を評価した。乾期に比較して雨期に易溶態の砒素が増加する傾向がみられたことから、雨期における地下水の灌漑や降雨・洪水によって、土壌中の砒素が溶出し移動することが示唆された。
雨水および地下水による自然条件下における砒素の溶出を検討するために、脱イオン水およびバングラデシュ人工地下水を用いて、バングラデシュ水田土壌のカラム溶出実験を行った。人工地下水によって易溶態砒素が溶出することが確認され、脱イオン水の場合には、さらに鉄結合砒素の一部の溶出も認められた。人工地下水中のカルシウムおよびマグネシウムが、鉄結合砒素の溶出を抑制していることが示唆され、さらにバッチ溶出実験によりこれを確認した。これにより、雨期における降雨・洪水による砒素移動の促進機構が明らかとなった。また、カルシウムとマグネシウム添加によって、土壌からの砒素溶出を抑制する可能性を示唆した。